ベルリンの博物館、考古学コレクションの起源を調査へ
違法な発掘や輸出が判明した場合、返還につながる可能性がある
ベルリンの国立博物館は、違法に発掘または輸出された遺物の本国送還を目指し、同国の考古学コレクションの出所について体系的な調査を開始する。
ベルリンとトルコの研究者が参加するパイロットプロジェクトでは、現在ベルリンの3つのコレクション(イスラム美術博物館、古代近東博物館、古典古美術コレクション)に所蔵されているサマル、ディディマ、サッマーラーの遺跡からの出土品の出所を調査するとベルリンの博物館関係者は述べている。
ベルリンの考古学コレクションは世界最大級のもので、16世紀までさかのぼる。プロイセン文化財団のヘルマン・パージンガー会長は、ベルリンで記者会見し、「来館者はますます、展示品がどこから来たのか知りたがっている」と語った。
これまでは、ナチスによって略奪された可能性のある美術品や、植民地時代に購入されたものを中心に、来歴の調査研究が行われてきた。しかし、考古学上の遺物に関する研究は、「法的・倫理的な問題を明らかにするという意味でも重要である」とプロイセン文化財団はポジションペーパーで述べている。
19世紀から20世紀初頭にかけての発掘調査では、外国人チームの許可には、訪問した考古学者とホスト国との間で出土品を分配する契約が含まれていることが多かった。ベルリン美術館のクリスティーナ・ハーク副館長は、「しかし、こうした協定はしばしば反故にされ、出土品は違法に輸出された」と指摘する。
このような協定が守られている場合でも、今日では「非対称な権力構造」の産物であり、それゆえに搾取的であると見なされるものもある、と彼女は言う。さらに、1970年のユネスコ条約で文化遺産の不正取引が禁止される以前は、美術品市場や寄付によって入手した品物の出所について、博物館はほとんど注意を払っていなかったとハーク氏は指摘する。
今回のパイロットプロジェクトで調査対象となった3つの遺跡は、オスマン帝国にあったものである: サマルとディディマは現在のトルコに、サッマーラーは現代のイラクにある。各博物館は、ドイツ・ロストアート財団から35万ユーロの研究資金を受け取っている。
ベルリン国立博物館古典古美術コレクション副所長マルティン・マイシュベルガー氏は、「具体的な返還請求はないが、いくつかの疑わしい事例がある」と述べ、これらの遺跡から許可契約に反してドイツに持ち帰られた可能性があるとした。
トルコの研究者と協力することで、現在トルコ人以外がアクセスできないアーカイブにアクセスできるようになる、と彼は言った。ベルリンのアーカイブにある約8,000枚の写真は、出土品がどのように扱われたかを知る重要な手がかりになると、マイシュベルガーは述べている。
ベルリンの博物館は、ドイツとオスマン帝国の考古学的協力関係を検証する展覧会も計画しているという。
(コメント)先のフランスのジャン=リュック・マルティネスによるレポート「共有遺産:芸術作品の普遍性、返還、流通」とあわせ読むと、文化遺産、文化財、遺骨をめぐる西欧博物館界の鍵概念を識ることができる。それを、いまここで説明することはしないが、メモランダムであった旧稿(1) を完全するところの本編において扱いたい。
ところで旧稿で筆者が、アルジリ・エマニュエル、ガンダー・フランクを参照して「〈政治・経済・文化的権力が偏在する状態における、中枢と衛星とのあいだの不等価交換〉(2)」と書いたことは、上にある「非対称な権力構造」とほぼ同義だが、実は「等価交換」「対称な権力構造」が存在するのだろうか、それらはフィクションではないか、言い換えれば「不等価」「非対称」が存在するだけなのではないか、と思うところがないわけではない。これを踏まえると、西欧(軍事的にNATO、経済的にEU)の博物館の実践の目的性動機はさておき、理由性動機におよんで批評されなければならないであろう。