文化は乱れる──マスクの文様に寄せて

2020年5月7日、菅官房長官のマスクの文様を、メディアはアイヌ文様と報じた(下の写真(1) )。ウポポイ(民族共生象徴空間)の、いったん延期された開館を、間近に控えてのプロパガンダだったのだろう。

しかし、その文様はアイヌ文様ではない。ウイルタ民族やニブフ民族など北方の民族がおこなう文様である。その文様をふくむ、ウイルタ民族の白樺製容器に施された文様に、わたしたちは親しく接することができる(冒頭の写真(2) )。

もちろん、ウイルタ民族やニブフ民族の文様をリスペクトして、参照して、他民族が製作するような文化交流は、一般的にある。たとえばわたしも、ウイルタ民族の人が作った文様を再現して作ることはできるが、それを日本文様とは言わない。北海道網走市には、ウイルタ民族の人が作っていた刺繡を継承するグループがあるが、ウイルタ刺繡と呼んで、決して日本刺繡とは言わない。プライオリティは、ウイルタ民族およびその個人にあるからである。

17年前の、ウイルタ民族の文様をめぐる事件を想い起こす(3) 。そのときも、国立民族学博物館が関与していた。国家権力が関与するとき、文化は乱れるようだ。

  1. 菅長官、「魔よけ」の布マスク アイヌ文様をあしらう(朝日新聞) – goo ニュース」、2020年5月7日閲覧。
  2. 『北方少数民族資料館ジャッカ・ドフニ展示作品集[改訂版]』(ウイルタ協会資料館運営委員会編)、ウイルタ協会、2002年2月22日、50頁。
  3. 犬塚康博「国立民族学博物館:「フォーラム」を睥睨する「神殿」 「アイヌからのメッセージ」展の吉田憲司フォーラム論批判」『月刊『あいだ』』94号、『あいだ』の会、2003年10月20日、2-15頁。

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